静岡市丸子の大だたら不動尊など各地の供養演
奏で知られる同市在住の津軽三味線奏者白井勝
文さん(50)がこのほど、津軽三味線のルーツと言
われる盲目の門付け芸人たちを物語にした弾き語
リを完成させ、月夜の野外コンサートで披露した。
力強いバチさばきと哀調を帯びた独特の語りに聴
衆はみじろぎもせず聞き入った。
四十三歳で脱サラし、この世界に飛び込んだ白井
さん。「祈リの芸人」と称し、死者への鎮魂と慰霊を
一本の太棹(ふとざお)に込めて演奏活動を続けて
いるが、津軽の風雪の中で不遇のまま逝った盲人
(ボサマ=坊様)たちのことがずっと気がかリだった。
「津軽三味線のルーツは琵琶語リ。幕末から明治、
大正とボサマは物乞いしなが村々を回って弾いた。
喜び、悲しみ、憤リ。人々の感情や心を自由にアド
リブ演奏した」と、白井さんはいう。いまや根強いファ
ンのいる津軽三味線だが、「乞食(こじき)芸」として
さげすまれた経緯から長い間、音楽的解明もされず
にきた。最近ようやく弘前の郷土史家の手で研究
がまとめられ、白井さんのボサマたちへの思いは一
層強くなった。
オリジナル語り「津軽三味線のルーツ」は三十分ほ
どの演奏語り。物語を練リ上げ、曲と語リの練習を
続けて一年がかりで完成させた。「彼らの魂の叫び
を何とか表現できた」と、白井さんは満足げだ。
演奏会は十月二十四日夜開かれた。静岡、清水市
境の標高三百mほどの梶原山公園山頂。満月にあ
と一歩の月光の中で、破れ編み笠(かさ)にボロ衣姿
の白井さんの一人語リは時に絶叫し、時にうめくよ
うに語りかけ、合間に三味線が畳みかけるように激
しく鳴って地元の聴衆を魅了させた。